・これまでのアルバム総売り上げ枚数:1億枚以上
・世界40ヶ国でゴールド/プラチナ・ディスクを達成
・グラミー賞を7回も受賞
・これまでのライヴ動員数:3000万人以上
・ラジオ・エアプレイの5%はメタリカの楽曲

世界で最も有名な、世界で最もビッグな、世界で最も大きな成功を収めたメタル・バンド、メタリカが成し遂げてきた栄光の詳細について語りたければ、他にいくらでも証拠を示すことはできる。しかしこうした事実は、メタリカを心から愛するファンの大半にとっては、おそらくどうでもいいことだろう。なぜなら、数字や記録といったものは、彼らのショウビズ面での重要性を裏付けてくれるだけで、メタリカというバンドの本質的な魅力についてはほとんど何も証明してくれないからだ。

彼らがこれまでに送り出してきた素晴らしい楽曲の数々、リリースしてきた珠玉のアルバム群、そして、それらが世界中のメタル・ファンに与えてきた絶大な影響――。メタリカは最初からメインストリームを闊歩することを約束されたバンドなんかではなかった。というより、むしろその逆、かつては一般的なロック・リスナーからはもちろん、良識派のメタル・ファンからも嫌われるような存在であった。彼らのサウンドがそれほど過激で常識破りなものだったからだが、だからこそ、本当に過激なサウンドを愛してやまないアンダーグラウンド・シーンのツワモノ達からは絶大に支持されたのだった。

過激であるがゆえに一般的なラジオでエアプレイされることもなく、MTV全盛の時代にもあえてビデオ・クリップを作らない主義を通したメタリカが、かつて権威あるビルボード誌のアルバム・チャートTOP 40圏内にいきなりランクインして周囲を驚かせたことがあったが、これもやはり、世界中に強固な根を張るアンダーグラウンド・シーンの熱心なサポートがあったからこそ可能になったことであった。インターネットなどまったく普及していなかった時代、ファン同士が情報を共有する手段といえば、もっぱら口コミか郵便のやり取り、ファンジンと呼ばれる小規模な雑誌を通すくらいしかなかったが、商業主義に中指を突き立て続けてきたメタリカは、こうしたアンダーグラウンドの草の根的な活動に支えられて、ついにメインストリームの壁をブチ破ってみせたのである。

アンダーグラウンドのファンに感謝を惜しまないバンドと、アンダーグラウンドのヒーローに全幅の信頼を寄せるファン。両者の素晴らしい関係はずっと続くものと思われた・・・が、成功者の傲慢が、そうした関係を突然崩壊させてしまう。

おそらくバンドにも迷いやプレッシャーがあったはずだが、一度失われてしまった信頼はそう簡単に修復されるものではない。既にメインストリームで確固たる地位を築いていたバンドにはあいかわらず莫大な成功がもたらされていたし、その気のなかったリスナーをも巻き込んだことでファンの数は増加の一途を辿っているようにも見えた。しかし、バンドとファンとの関係は、もはや昔とはまったく違ったものになってしまっていた。数字や記録と引き換えに、メタリカは、数字や記録では計れない大切なものを失ってしまったのである。

だが、商業主義に取り込まれる過程で失っていった、過激で常識破りなサウンドとアンダーグラウンド・ネットワークの信頼がどれほど大きなものであったか、メタリカ自身、やがて気づく時がやってくる。そして彼らは、まるでモンスターのごとく手のつけようもないほどに肥大化してしまっていたバンドを再び自分達の手に取り戻し、本当に大切なものをもう一度見極めるために、やらなければいけないことを1つずつこなしていく。メンバー間に鬱積していた不満を洗いざらいぶちまけ、新たに強固な絆を築き上げ、バンドが始まった頃のピュアなモチベーションを駆って音楽に向き合うこと。その結果生み出されたのが、「セイント・アンガー」というアルバムであった。

事前から“原点回帰”“昔のメタリカ”といったキーワードが盛んに伝えられていた「セイント・アンガー」が、実際のところ、初期のバンドの音楽性にどれほど近いフィーリングを備えるものに仕上がっていたか、それは大した問題ではない。肝心なのは、“どういう作風だったか”ではなく、“ファン1人ひとりがどう感じたか”なのだから。

まもなくメタリカは、「セイント・アンガー」以来、約5年ぶりとなる新作「デス・マグネティック」を発表する。このアルバムが我々ファンにどんな刺激を与えてくれるのか、期待も興味も尽きない。いずれにしても、前作であれほど“過激なメタリカ”にこだわってみせた彼らなのだから、きっとファンの信頼を勝ち得られるだけの、とにもかくにもメタリカらしいアルバムを作り上げてくれていることだろう。メタリカが真のメタル・ヒーローとして、ファン1人ひとりの心からのリスペクトと共に堂々とメインストリームを闊歩するその姿を、やはりこの目でしっかりと見届けたい!